〜半径200メートルの小宇宙〜 ノンアル女子の発酵ひとり旅

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発酵、醸造と聞いてお酒を思い浮かべる人も多いと思いますが、料理が好きな人ならそこは味噌、しょう油ですよね。栄養豊富な大豆を主原料とする香り高き調味料は、先人の知恵が詰まった日本の伝統食。私たちの食生活には欠かせない存在です。

そんな味噌としょう油の蔵元が2軒、近隣で操業する珍しいエリアを偶然ネットで見つけました。場所は秋田県湯沢市岩崎。かつて城下町として栄えた名残が所々に顔を出す、趣のある地域のようです。
2軒の間の距離は約400メートル。どんなにゆっくり歩いても10分とかからないでしょう。加えてルートの中間にはオシャレなランチスポットもあるようなので、今回は1日で複数の施設を一気に巡る旅を設計してみました(1本の通りを歩くだけですが)。
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秋田市から秋田自動車経由で1時間弱。岩崎地区に入り、まずは1軒目の蔵元、石孫本店へお邪魔します。

石孫本店は、1855年に初代石川孫左エ門が杜氏(とうじ)とともに研究を重ね、しょう油の醸造を始めた蔵元。明治・大正期に建てられた醸造蔵4棟(国指定有形文化財)など、歴史的に価値ある空間を今なお大切に使い続けているそうです。
昨年6月には代々受け継いできた知恵と技を地域の活性化に役立てようと、建物の一部をリノベーション。仕込みの工程に沿って蔵の中を見学できるコースとワークショップスペースを新設し、観光蔵としての魅力を増幅させたと聞きました。
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その見学コースに入って一番驚いたのは、素人目にも分かるほど非機械化、非自動化が徹底されていたことでした。

案内してくれた石川専務は「同業者には、まだそんな造りをしてるの?と言われます」と話していましたが、同業者の発言の真意が『すごい』『できるなら続けてほしい』であることは想像に難くありません。歴史の教科書に出てくるような"昔のしょう油づくり"が目の前で繰り広げられたら、その大変さが分かる人ほど大きな感銘を受けるでしょう。
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この日見ることができたのは、蒸した大豆と細かく砕いた小麦、そして種麹(たねこうじ)を混ぜ合わせる作業。その後、ひとつにされた材料は麹蓋(こうじぶた)と呼ばれる木の容器に移され、発酵させるための麹室(こうじむろ)へ運ばれていったのですが、一連の作業をこなす蔵人さんたちの手際の良さといったら!流れるような所作と、あうんの呼吸で仕事をこなす姿がとても印象的でした。

ちなみに石孫本店では麹室や蔵の温度管理も(木炭と藁を使っています)、木桶での仕込みも、搾りの工程、ラベル貼りまでも人の手で行っています。こんなふうに手間暇かけて造られるしょう油が、おいしくないわけがありません。
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実際に生(なま)しょう油の搾り体験で味見をさせてもらいましたが、小さなスプーンを口としょう油の間で何度も行き来させてしまうほど本当に美味でした。

このほか新設されたワークショップスペースでは、お湯を注ぐだけで具入りの味噌汁が完成する「味噌ボールづくり」や、せんべい生地に石孫オリジナルのタレを塗って味わえる「せんべい手焼き」など、数種類の体験をすることができます。体験、そして蔵見学は基本的に予約・定員制となっているので、訪問する際には事前にホームページで空き状況などをチェックするのがオススメです。

石孫本店オフィシャルホームページ
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あっという間に滞在予定時間が過ぎ、石孫本店のみなさんに別れを告げて外に出ると、にわかにおなかの虫が騒ぎ出しました。目に映る景色はよくある田舎町のそれで、飲食店らしき建物はひとつも見当たりませんが不安はありません。ここから2軒となりが、冒頭でも触れたオシャレなランチスポットのはずです。

目的地はすぐに見つかりました。ホームページには築120年と書かれていましたが、まったく古さを感じさせません。古民家もセンスがある人の手にかかれば、ここまでステキな建物に生まれ変わるんですね。
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お店の名前はmomotose。カフェとインテリアショップが一体になった空間では、地元の食材と石孫本店の味噌としょう油を使った料理を楽しめるようです。

店内は平日にも関わらず、驚くほどにぎわっていました。インテリアグッズがディスプレーされた一番手前のスペースで、建物中間のテーブル席で、そして店の奥にある黒漆喰の内蔵を利用した空間で、幅広い年代の人が思い思いの時間を楽しんでいました。
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客席で使用されている椅子やテーブルがおそろしくデザイン性に優れていたので、食事を運んで来てくれた店員さんに尋ねると、なんとそれらすべては実際に購入できるものの見本でした。じっくり検討したい人向けに、家具見学のみを行う曜日も設定されているようです(火水曜・要予約)。
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食事後、自由に閲覧できる本を席に持ち込みページをめくっていると、上質なホテルの部屋で過ごしているかのような錯覚を抱きました。空間の豊かさを決める要素として、家具の存在は大きいんですね。『ここへ来ると、ついつい長居してしまう』と誰かがSNSでつぶやいていた理由が、今となってはよく分かります。

momotose オフィシャルホームページ
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おなかも心も十分に満たされたところで向かうのは、2軒目の蔵元、ヤマモ味噌醤油醸造元です。

ヤマモ味噌醤油醸造元は1867年創業の老舗蔵ですが、革新蔵と表現した方が正しいかもしれません。文章を読み進める前に、一度下記リンク先をのぞいてみてください。

ヤマモ味噌醤油醸造元オフィシャルホームページ
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お分かりいただけたでしょうか。掲載されているテキストや写真、商品のパッケージデザインから、醸造元の既成概念を飛び越えていこうとする姿勢が伺えますよね。見ているだけで刺激を受けます。
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しかし、それ以上にステキだなと思ったのは、クリエイティブの陣頭指揮を執る7代目髙橋さんと社会変革事業部の澤口さんの口から語られた、ローカルから変革を起こしていくという意志。

「お客様は変わらない味を求めますが、変わらないと産業は終わってしまいます。変化する世界の流れと、なぜ自分がやるのかという主観を捉え進化しなくてはいけません。そこで私たちは個人の主観と土地に眠る遺産を生かし、日本の伝統産業を創造性と美意識で再構築することを試みています。それが世界の特異点となり、国内外から人を呼び込むことに繋がると考えています」──真摯な言葉が心に響きました。
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蔵にはラボが設置され、酵母の培養・発酵実験や、試験醸造から派生した特異な菌の研究も行われてしました。ここで得られた知見は味噌、しょう油の醸造や、蔵のカフェで提供する料理に生かされているとのこと。ラボでの研究がきっかけとなり始まった、自社酵母によるワインづくりも大詰めを迎えているそうで、敷地内では先行してセラー兼販売スペースの設置準備が進められていました。

注目すべきトピックは、ほかにもあります。蔵ツアーの新たな呼び物となりそうな茶室の新設工事が進行中で、チャレンジングな醸造を行うための麹室の新設工事も進行中。また現在ディナーのフルコースで実施しているもろみ蔵でのスターター(前菜の前に出される料理)の提供を発展させ、麹室の前で実験的な料理を振る舞う計画もあるようです。
次回訪れたときには、きっと目に映る景色が一変していることでしょう。
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蔵の中を一通り案内してもらったあとは、お楽しみタイム。本日2度目のランチです(笑)

すべての料理は国内外のシェフが監修に入っているそうで、前菜はベジタリアンの調理法を生かしたサラダ。揚げた野菜、蒸した野菜、ソテーした野菜に豆腐を酵母で発酵させたムースと、シーフォアグラを酵母で発酵させたムースをあわせていただくそれは、ヤマモブランドのしょう油でローストしたナッツが付け合わせで入っていたり、自社酵母でヨーグルトを発酵させて作るドレッシングがかかっていたりと、手の込みようが尋常ではないレベル。作り手の熱意を感じつつ、酵母の奥深さを実感として得るのに十分な一皿でした。
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メインは発酵エゾ鹿フィレ肉のコンフィ。ここでも肉質を柔らかくしたり、ジビエ特有の臭みをカバーし、うま味をアップさせたりするのに酵母を活用。高タンパク低脂肪でヘルシーな鹿肉と酵母の組み合わせがもたらす美味は、口に入れるたび自分の体が喜んでいるような気がしました。
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デザートはジェラートです。家伝の味噌としょう油を使ったソースがアクセントとしてしっかり効いていて、練り込まれたチョコやナッツが味と食感の変化を楽しませてくれる、一度で二度、三度おいしいスイーツでした。また3品とも、ノンアルコールシャンパンとの相性が素晴らしく良かったことも追記しておきます。


楽しい時間は瞬く間に過ぎ、気がつけば時計の針は16時を回っていました。10時に岩崎地区に入ってから6時間。半径200メートル圏内で、すっかり1日(日中の時間を使い切るという意味で)遊んでしまいました。
これほどまでに中身の濃い体験ができる"町内"は、全国的にもそうないのではないでしょうか。機会があればみなさんも、湯沢市岩崎への旅を計画してみてください!